絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「なんか、納得いかないな」
 唇に触れながら言う。
「そうか?」
「そうだよ。好きの一言も言えないなんて。こういう大人にはなっちゃいけないな」
「(笑)。お前を見習うよ。いい大人の見本として」
「わっ!」
 突然背中に腕を回して、押し倒してくる。
「キスを仕掛けてくる大人がいい大人なら、その先ができる大人もいい大人だろ?」
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
 太ももを開き、間に足を入れて来るので、
「待って、待って、嫌だ」
 真剣に拒否している自分が、自分でも信じられなかった。
「待って、待って、待って」
 すでに巽は体重をかけることをやめ、体を離しているが、こちらの心がうまく動いてくれない。
「ごめん、だめ。ちょっと、待って」
 喉が痛くなる。信じられないくらい、心がいうことをきかない。
「冗談だ」
 不意に強く抱きしめられた。
「お前が誘うまではしない。誘う時はセクシーな下着でもつけて知らせてくれればいい」
「すごい要求だね。具体的すぎる」
 痛い喉をすぐに忘れて笑った。
「…………、しばらくダメかもしれないから、浮気してもいいよ」
「心にもないことを言う癖は相変わらずだな」
「そんな癖ないよ」
「いつものことだろう?」
 顔が寄ってきて、自然に目が閉じる。
 やさしい、触れるだけのキス。
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった」
「……」
 巽は、強く強く抱きしめてくれる。
「あ、二百万は後で体で返すから」
 巽は吹き出しながら、
「一生かかるな」
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