絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「うんそう、阿佐子のお父さんと夕ちゃんのお父さんが上司と部下の関係なの。それで、私と阿佐子が幼稚園の頃から仲よくて……だから長いよね、ほんと」
「うん」
「あとね、阿佐子の主治医だった人と、4人で……は遊んでないけど、その4人で気の合うメンバーになってよく遊んだよね、4人ではないけど」
「やっぱり、なんというか、その、主治医の人はちょっと年がいってるんで、まあ、どうしてもはみ出てしまう、というか(笑)」
「桜美院の手術室で会った人か?」
「ああ! そうそう、そうなの。この前会社の人が事故した時、病院行ったらいたのよ」
「あいつが担当?」
「ううん、さあなんか、ぶらぶらしてたけど」
「職場でぶらぶらって(笑) 」
「ま、そういう感じなのよ」
 香月は元気そうに笑った。その隣で巽は静かに飲んでいる。
 似合いの2人だな、と思った。香月の元気で、時々無茶する性格に、物静かで冷静な巽はぴったりな気がした。
「んで……どうなのよ、最近仕事、とか……」
 答えを知っているので、つい歯切れの悪い声を出してしまった。
「ああうん、私今無職なの。なんというか……囲われ者」
「えっ?」 
 夕貴は我慢して一度間を置いてから、巽を見た。
「……」
 もちろん、アクシアオーナー巽 光路は無言だ。
「あのさ……」
 言いかけて、やめる。
「何?」
 香月は上目使いで、飲めもしないグラスに口をつけた。
「いや……その……そう、無職って?」
「ああ、辞めたの、エレクトロニクス」
「それで、無職?」
「うーん、間にホステスとかやってたけど」
「え、どこの店で?」
「…………知ってたでしょ、夕ちゃん。だってそれほど驚いてない」
「えへっ……いや、まあ……」
 バレたことにほっと胸を撫で下ろし、頭をかいた。
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