体で伝える愛言葉
誰も言えなかった。


私は、試練の第一歩だと思って伝えることにした。


[廉斗、あなたの耳はもう聞こえないの。事故の後遺症で、鼓膜が破れて脳の神経も切断されたんだって。]


聞こえないから、メールで伝えた。


携帯を見て固まる廉斗。


「嘘…だろ?う、そだよな?」


「じゃぁ今あなたに自分の声は聞こえてる?」


何て残酷なことを聞くんだろう。


でも、現実を受け入れてもらわなきゃ。


私たちも頑張って受け入れるから。


「なぁ今なんて言ったんだ?な…て言ったんだよ!!」


唇の動きで私がしゃべったことはわかっても、それが『音』になっては伝わらない。

またメールを送る。


恐る恐る携帯を開く廉斗。


残酷な言葉たちは、文字となって携帯に記録される。


ひどい女だって思ってるよね。


最低だって思ってるよね?


でもね廉斗。


これが現実なの。


あなたはコレから先この現実と一生付き合って行かなきゃいけないんだよ?


今はつらいかもしれない。


でもきっといつか乗り越えられるはずだから。


それまで私は全力であなたを支える。


だから、負けないで。


私は、最後のメールを送った。


廉斗の目に、今は私は写っていない。


私は、そっと部屋を出た。


みんなを呼んで。


きっと廉斗は、泣きたいはずだから。


1人…静かに。
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