体で伝える愛言葉
私たちは、廉斗の家で一緒に過ごすことになった。


廉斗は社長の計らいで事務に回された。


朝は少しゆっくりできる。


みんなで食卓を囲む。


私はおばさんに習いながら花嫁修業のやり直しだ。


朝食が出来上がり、私は廉斗を起こす。


私が考えた。


私たちらしい起こし方。


深く長いキス。


廉斗の目がパチッと開く。


「お、は、よ。」


「ぉあよ。」


廉斗が笑顔で返す。


廉斗が着替えてきてみんなで朝食を食べた。


「い゛てくる。」


たどたどしい言葉で廉斗がそう言った。


廉斗は、まだ自分がちゃんとはなせるって思ってるのかな。


いつか、今の自分に気付いたら話すこともやめてしまうのかな。


そうならないように、私は、いつものように接してあげなきゃ。


「いってらっしゃい。」


ゆっくり伝える。


廉斗はドアを開けようと私に背を向けた。


そう言えばあの日も…。


こうやって、見送ったっけ?


「行かないで!!」


気付けば私は廉斗にしがみついていた。


いったら、二度とあえない気がして、今度こそ本当のサヨナラになる気がした。


怖い。


ずっと家にいればいいじゃん。


そばにいて。


もう、どこにも行かないで。
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