体で伝える愛言葉
お風呂に入って考えた。


耳が聞こえないってどんな感じなんだろう。


両耳を塞いでみる。


出しっぱなしにしていたシャワーが流れ続ける。


水の音は全くしない。


浴槽を軽く蹴ってみる。


足に感覚が残るだけで、何の音もしない。

廉斗は、こんな世界で生きているのかな。

「が…り゛…」


廉斗の声がかすかに聞こえて、私は現実に引き戻された。


「だい゛じょうぶか?の゛ぼせたか?」


ドアを開けて顔を出す。


「考えてたの。音が聞こえないってどんな感覚か。耳をふさいで感じてた。」


廉斗は驚いて私をみる。


「ちがう゛よ。みみ゛をふさぐより、水にもぐてるかんじ。」


廉斗が教えてくれた。


「そうなんだ。」


「ぎゅうにどした?」


「ううん、何となく気になっただけ。」


「はやくあがれよ?」


廉斗は部屋へ戻っていった。


今度は、お風呂に浸かって潜ってみた。


ゴボゴボって変な音が聞こえる。


それは、私の耳が聞こえているから?


水の中で耳をふさいでみた。


僅かに音が入ってくる。


でもそれは何だか籠もっていて、音と呼ぶには、不自然な気がした。
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