エスメラルダ
時計の音が、夜の十時を告げた。
父がその日、初めてはっきりした言葉でエスメラルダに命じた。自室で眠れと。
お父様が……!
明日からはいつもの父様に戻って下さるかもしれない。きっとそうだ!
エスメラルダは希望にしがみつき寝室へと下がった。
そして泥のように眠り込んだ。疲れていたのだ。リンカの教育があってもエスメラルダは十一の少女にしか過ぎないのだから。
明日は良い日でありますようにと、エスメラルダは神と天国の母に祈った。
その日が、エスメラルダにとって運命の残酷さから目を逸らす事が出来る最後の夜となった。
ランカスターはその夜、遅くまでローグと飲んでいた。ザルどころかタガであるランカスターは酔いつぶれていくローグに苦笑する。
余程、奥方は魅力的な人間であったのであろうな。
何せあのエスメラルダの母なのだから。
だらしなく酔いつぶれ、涙と鼻水を垂らし妻の名を呼ぶローグがランカスターには哀れであった。
「リンカ……リン……」
ローグのブラウスは零れたワインで紫色に染まっている。洒落者で有名なローグが。
そのローグに残されたのはエスメラルダだけ。
そう思うとエスメラルダをさらってしまうのはこの男に余りに酷な気がした。
しかし、エスメラルダをエリファスに連れ帰るのは容易かった。
それは余りに残酷だったが。
神の深慮か、悪魔の気紛れか。
翌朝、ランカスターは絹を切り裂くような悲鳴で目を覚ました。
父を起こしに来た娘は、父がタイで首をつり母の後を追ったのをその目で見たのである。
「あああああああああああああああああ!!」
叫び続けるエスメラルダを、寝間着のまま飛び出してきたランカスターが抱き締めた。
その途端、力が抜けたのであろう。
昨日と同じ喪服を着たエスメラルダは彼の腕で意識を手放した。
皮肉な事に、その日はエスメラルダの十二歳の誕生日であった。
父がその日、初めてはっきりした言葉でエスメラルダに命じた。自室で眠れと。
お父様が……!
明日からはいつもの父様に戻って下さるかもしれない。きっとそうだ!
エスメラルダは希望にしがみつき寝室へと下がった。
そして泥のように眠り込んだ。疲れていたのだ。リンカの教育があってもエスメラルダは十一の少女にしか過ぎないのだから。
明日は良い日でありますようにと、エスメラルダは神と天国の母に祈った。
その日が、エスメラルダにとって運命の残酷さから目を逸らす事が出来る最後の夜となった。
ランカスターはその夜、遅くまでローグと飲んでいた。ザルどころかタガであるランカスターは酔いつぶれていくローグに苦笑する。
余程、奥方は魅力的な人間であったのであろうな。
何せあのエスメラルダの母なのだから。
だらしなく酔いつぶれ、涙と鼻水を垂らし妻の名を呼ぶローグがランカスターには哀れであった。
「リンカ……リン……」
ローグのブラウスは零れたワインで紫色に染まっている。洒落者で有名なローグが。
そのローグに残されたのはエスメラルダだけ。
そう思うとエスメラルダをさらってしまうのはこの男に余りに酷な気がした。
しかし、エスメラルダをエリファスに連れ帰るのは容易かった。
それは余りに残酷だったが。
神の深慮か、悪魔の気紛れか。
翌朝、ランカスターは絹を切り裂くような悲鳴で目を覚ました。
父を起こしに来た娘は、父がタイで首をつり母の後を追ったのをその目で見たのである。
「あああああああああああああああああ!!」
叫び続けるエスメラルダを、寝間着のまま飛び出してきたランカスターが抱き締めた。
その途端、力が抜けたのであろう。
昨日と同じ喪服を着たエスメラルダは彼の腕で意識を手放した。
皮肉な事に、その日はエスメラルダの十二歳の誕生日であった。