エスメラルダ
そしてその時がきたのである。
夜、雪嵐に阻まれて、村と村の間で馬車が立ち往生する羽目になった。
ランカスターは、供の者を連れて何とか馬車を安全に止めておく事が出来る場所はないかと探しに行った。
その十分ほど後であろうか。この御者が馬車の中に押し入り、エスメラルダの小さな身体にのしかかったのは。
エスメラルダは窒息しそうで辛かったのを覚えている。だが、冬の冷気に脚をさらされたときに意識は明瞭になった。
この男に好きなようにさせてはならない!
唇を押し付けてきた男の舌を。
エスメラルダは。
噛み千切り、雪の上に吐き出した!!
エスメラルダは蹴り飛ばされ馬車内の壁に身体を打ちつけた。
御者は扉の外に転がり落ちる。
「……!!」
声にならない悲鳴を上げている御者を、エスメラルダは冷たく見やった。
当然の報いだ。
そうとしか思えなかったのだ。
やがてランカスターが戻ってきて、事の真相を知るなり、馬車の扉を閉めさせると御者の首を跳ねた。扉を閉めさせたのはエスメラルダに残酷なシーンを見せてはならないというランカスターの深慮であった。
だが、エスメラルダはそっと人差し指が通るくらいの隙間、扉を空けてその場面を余す事無く見ていたのである。
ランカスターが馬車内に戻って、エスメラルダと向き合った。
「大丈夫か? 何をされた? 何処にも怪我はないか?」
「ありませんわ、ランカスター様」
エスメラルダは真っ赤な唇で笑った。
その時、ランカスターは背筋が凍るような衝撃を受けた。
血に濡れた紅い唇はなんと艶かしいものであろう。
絵に描いてみたい、そう思った。
だけれども、きっと、その代償は魂。
それならそれで良いではないか。
ランカスターはエスメラルダの為にハンカチーフを雪で濡らした。そして丁寧にエスメラルダの唇を拭いてやる。
そして心の中でランカスターは神に乞うた。
エスメラルダをこの手で画布に閉じ込める為の代償に、何でも差し出そうと。
御者は他の供の者が買ってでた。
緋蝶城が近づく。
そして、二人の少女は出会ったのだ。
夜、雪嵐に阻まれて、村と村の間で馬車が立ち往生する羽目になった。
ランカスターは、供の者を連れて何とか馬車を安全に止めておく事が出来る場所はないかと探しに行った。
その十分ほど後であろうか。この御者が馬車の中に押し入り、エスメラルダの小さな身体にのしかかったのは。
エスメラルダは窒息しそうで辛かったのを覚えている。だが、冬の冷気に脚をさらされたときに意識は明瞭になった。
この男に好きなようにさせてはならない!
唇を押し付けてきた男の舌を。
エスメラルダは。
噛み千切り、雪の上に吐き出した!!
エスメラルダは蹴り飛ばされ馬車内の壁に身体を打ちつけた。
御者は扉の外に転がり落ちる。
「……!!」
声にならない悲鳴を上げている御者を、エスメラルダは冷たく見やった。
当然の報いだ。
そうとしか思えなかったのだ。
やがてランカスターが戻ってきて、事の真相を知るなり、馬車の扉を閉めさせると御者の首を跳ねた。扉を閉めさせたのはエスメラルダに残酷なシーンを見せてはならないというランカスターの深慮であった。
だが、エスメラルダはそっと人差し指が通るくらいの隙間、扉を空けてその場面を余す事無く見ていたのである。
ランカスターが馬車内に戻って、エスメラルダと向き合った。
「大丈夫か? 何をされた? 何処にも怪我はないか?」
「ありませんわ、ランカスター様」
エスメラルダは真っ赤な唇で笑った。
その時、ランカスターは背筋が凍るような衝撃を受けた。
血に濡れた紅い唇はなんと艶かしいものであろう。
絵に描いてみたい、そう思った。
だけれども、きっと、その代償は魂。
それならそれで良いではないか。
ランカスターはエスメラルダの為にハンカチーフを雪で濡らした。そして丁寧にエスメラルダの唇を拭いてやる。
そして心の中でランカスターは神に乞うた。
エスメラルダをこの手で画布に閉じ込める為の代償に、何でも差し出そうと。
御者は他の供の者が買ってでた。
緋蝶城が近づく。
そして、二人の少女は出会ったのだ。