エスメラルダ
初めての口づけ。
それはひどく乱暴なものだった。
今まで堪っていた鬱憤の全てを突きつけられるようだった。
いつの間にかレーシアーナの華奢な身体はベッドに引っ張り込まれ、組み敷かれている。
男の強い力にどうやって抗う事が出来ようか? それは無理というものだった。
だけれども、レーシアーナは精一杯抗った。
本当はエスメラルダがお好きなくせに!!
そう、レーシアーナを突き動かしているのは怒りだった。自分を純粋に求められたのなら、レーシアーナはどんな事をされても従ったに違いないのに。
だが。
「愛している、レーシアーナ」
その途端、レーシアーナは脱力した。
こんの、大嘘吐き!!
だけれども、それが言えなかった。
何故ならその言葉は、レーシアーナが命をかけてでも欲しかった言葉であるからだ。
「嘘じゃない、レーシアーナ」
熱い吐息と共に、ブランシールは囁く。確かに熱を持っているのに、何故だか冷たく思えるのは何故だろう。
「ずっと……夢だった」
その言葉だけは嘘ではなかった。
だからレーシアーナは、抗っていたが為に乱れた呼吸を、ゆっくりと整えようとする。
だが、ブランシールはレーシアーナが抗うのをやめたのを自分の求愛を受け入れた証拠として激しい愛撫を始めた。
レーシアーナのくぐもった声が上がる。
乙女の胸に顔を埋めてみると早鐘を打つようだった。火照る身体。かつてブランシールが最も愛したもの。
許してくれなどとは言えないな、お前には。
それは余りに大きな罪であったが為に。
僕は兄上とは違う。
ブランンシールは自嘲する。
憧れの対象。遠くにはランカスターがいた。だが、最も身近で接し、崇拝の全てを捧げたのは兄であった。
姿や仕草はランカスターを真似た。
だが、心の中の英雄は美しい兄ただ一人。
フランヴェルジュ。炎、いや、太陽のような兄。焦がれし者を焼き尽くさんとするかの如く。
あの人の激しい性格と子供のような純真さを穢す事無く、あの人の夢を叶えたい。
そんな事を考えているブランシールの下で、レーシアーナは必死で声を堪えている。
ブランシールの知る淑女達は皆、声を上げてもっともっとと強請るものだった。
そう考えればレーシアーナのこの反応は新鮮なのだが、ブランシールはどうしても集中出来ないでいた。
エスメラルダ。
もし、自分が組み敷いているのがあの緑の瞳の娘だったならばと考える。だが、否だ。
あの娘は兄上のもの。
兄上と共に並ばせ立たせればどれ程美しく映るだろう。
そして、ブランシールには、ブランンシールだけには、それを実現させる事が可能であった。
何故なら父王レンドルの秘密を知っているからである。ブランシールはただ。それをネタに脅迫すればいい。
容易い事だ。
後はエスメラルダが審判の儀式さえ受けてくれたならば、それは本当に容易く、簡単な事なのだ。
エスメラルダ。
またその名を思い浮かべてしまったブランシールは歯がゆさに負けてレーシアーナの耳を噛んだ。レーシアーナが思わず上げる大きな声。
その声が聞きたかったのだ。
「もっと鳴いて。良い声を聞かせて」
レーシアーナは涙を流しながらかぶりを振った。
何故、涙?
それはブランシールにも、レーシアーナにさえも解らない事であった。
日差しが窓から斜めに入ってくる頃、漸く狂乱の時は終わった。
裸のまま、ブランンシールはレーシアーナの頭を肩にのせると優しく言った。
「今日の正餐で、僕は父上に申し上げるつもりだ。レイデン侯爵令嬢レーシアーナ・フォンリル・レイデンを妻に娶るつもりだと。勿論、正妃として」
レーシアーナは瞠目する。
「せ……いひ? だって貴方が愛しておいでなのは、エスメ……!!」
「お前だ、レーシアーナ」
続く言葉の先を、奪う甘い接吻。
それはひどく乱暴なものだった。
今まで堪っていた鬱憤の全てを突きつけられるようだった。
いつの間にかレーシアーナの華奢な身体はベッドに引っ張り込まれ、組み敷かれている。
男の強い力にどうやって抗う事が出来ようか? それは無理というものだった。
だけれども、レーシアーナは精一杯抗った。
本当はエスメラルダがお好きなくせに!!
そう、レーシアーナを突き動かしているのは怒りだった。自分を純粋に求められたのなら、レーシアーナはどんな事をされても従ったに違いないのに。
だが。
「愛している、レーシアーナ」
その途端、レーシアーナは脱力した。
こんの、大嘘吐き!!
だけれども、それが言えなかった。
何故ならその言葉は、レーシアーナが命をかけてでも欲しかった言葉であるからだ。
「嘘じゃない、レーシアーナ」
熱い吐息と共に、ブランシールは囁く。確かに熱を持っているのに、何故だか冷たく思えるのは何故だろう。
「ずっと……夢だった」
その言葉だけは嘘ではなかった。
だからレーシアーナは、抗っていたが為に乱れた呼吸を、ゆっくりと整えようとする。
だが、ブランシールはレーシアーナが抗うのをやめたのを自分の求愛を受け入れた証拠として激しい愛撫を始めた。
レーシアーナのくぐもった声が上がる。
乙女の胸に顔を埋めてみると早鐘を打つようだった。火照る身体。かつてブランシールが最も愛したもの。
許してくれなどとは言えないな、お前には。
それは余りに大きな罪であったが為に。
僕は兄上とは違う。
ブランンシールは自嘲する。
憧れの対象。遠くにはランカスターがいた。だが、最も身近で接し、崇拝の全てを捧げたのは兄であった。
姿や仕草はランカスターを真似た。
だが、心の中の英雄は美しい兄ただ一人。
フランヴェルジュ。炎、いや、太陽のような兄。焦がれし者を焼き尽くさんとするかの如く。
あの人の激しい性格と子供のような純真さを穢す事無く、あの人の夢を叶えたい。
そんな事を考えているブランシールの下で、レーシアーナは必死で声を堪えている。
ブランシールの知る淑女達は皆、声を上げてもっともっとと強請るものだった。
そう考えればレーシアーナのこの反応は新鮮なのだが、ブランシールはどうしても集中出来ないでいた。
エスメラルダ。
もし、自分が組み敷いているのがあの緑の瞳の娘だったならばと考える。だが、否だ。
あの娘は兄上のもの。
兄上と共に並ばせ立たせればどれ程美しく映るだろう。
そして、ブランシールには、ブランンシールだけには、それを実現させる事が可能であった。
何故なら父王レンドルの秘密を知っているからである。ブランシールはただ。それをネタに脅迫すればいい。
容易い事だ。
後はエスメラルダが審判の儀式さえ受けてくれたならば、それは本当に容易く、簡単な事なのだ。
エスメラルダ。
またその名を思い浮かべてしまったブランシールは歯がゆさに負けてレーシアーナの耳を噛んだ。レーシアーナが思わず上げる大きな声。
その声が聞きたかったのだ。
「もっと鳴いて。良い声を聞かせて」
レーシアーナは涙を流しながらかぶりを振った。
何故、涙?
それはブランシールにも、レーシアーナにさえも解らない事であった。
日差しが窓から斜めに入ってくる頃、漸く狂乱の時は終わった。
裸のまま、ブランンシールはレーシアーナの頭を肩にのせると優しく言った。
「今日の正餐で、僕は父上に申し上げるつもりだ。レイデン侯爵令嬢レーシアーナ・フォンリル・レイデンを妻に娶るつもりだと。勿論、正妃として」
レーシアーナは瞠目する。
「せ……いひ? だって貴方が愛しておいでなのは、エスメ……!!」
「お前だ、レーシアーナ」
続く言葉の先を、奪う甘い接吻。