泣けない君と笑わない僕
放課後
教室までむかえに来てから1時間ちょっとたつが由紀の態度はかわらず、先ほど発表された研究課題の代表者に自分の名前がなかったことが面白くないらしく、こちらから顔が見えないよう遮るようにうつぶせになっている。そんなに長い間顔くっつけてたら跡つくぞーなんて今言ったら殴り飛ばされそうだ。
「由紀、もう帰ろうよー」
いつもならとっくに家路についている時間。
「もうちょっと待って」
「それ5分前に言ってた」
何回きいたかわからない台詞。
「ホントなんで...あーまた悲しくなってきた。悲しいって言うかイライラする。陽人あっち行け」
「えー...それ1時間以上『もうちょっとー』につき合わされた俺に言う台詞?」
気持ちはわかるのだがやっぱり俺ははやく帰りたい。
「だってさ...頑張ったんだよぉ...あの実験1回目失敗して2回目でやっとできたのに」
「あーあーわかってるって泣くなよ」
泣いてるようにしか見えないのだが、本人が泣いてないというのならそうなのだろう。
「泣いてないよ、何言ってんの陽人...ちょっとなんでアンタが泣いてるのよ」
「お、おま...お前が泣かないからだろ...!」
気づかないうちに自分が泣いていたらしい。
「泣けないものはしかたないじゃない。それに泣いたって事実が変わるわけじゃないんだから」
なんてやつだ。人を1時間待たせておいて言う台詞か。ていうか涙が止まらない。
「俺だって由紀の研究課題やってるのみてたから、悔しいし悲しいしイライラするんだよ。」
「だからって泣かなくてもいいじゃない」
「うぅ...やべ...っとま、止まんね...」
早く帰らないと見回りの先生来ちまう。
「あーもう、じゃあさ来年はさ、2人でやろうよ。研究課題」
「それでさ、来年こそは代表になろうよ」
由紀が小さな声で言った。
「お、おう...っわかったよ」
「うっしゃ帰るかー」
「待てよ。なんでそんなに元気なんだよさっきまで泣きそうだったくせに」
「ほら、あれあれ。陽人が変わりに泣いてくれたから」
「そーか...まぁいいけど」
赤くなった顔を隠すように伸びをしながら玄関へと向かう由紀を追いかけた。
(また私が泣きそうなときは泣いてくれますか?)
(来年も一緒にいてくれますか?)
泣かない君と笑えない僕―――