悲哀少女
―2
雲ひとつない晴天の下、小さな町にあるとある家からは、甘い香りがしていた。
「母さん、このタルト持って行っていい?」
机の上にある出来立てのフルーツタルトをまじまじと見ながら、ライゼは言う。
「全部はダメ。一緒に遊ぶ人数分だけね。誰と遊ぶの?」
「シルビア!」
「? 初めて聞く名前ね。そんな名前の子、この町にいたかしら?」
「昨日森の中の花畑で会ったんだ。髪と目の色が灰色なんだよ。珍しいでしょ」
〝灰色〟という言葉に、タルトを切る彼女の手が止まる。
「どうしたの、母さん」
「……ライゼ、その子は……」
言い辛そうな母の顔を、ライゼは不思議そうに見つめる。
「……ううん、なんでもないわ。良かったわね、新しいお友達が出来て」
そう言って微笑む彼女に、うん、といって彼も嬉しそうに笑った。