デュッセルドルフの針金師たち後編

カウントダウン

今日はもう大晦日。ユースにチェックインして
カバンを持って4人はハイドパークに向かう。

日が暮れて人がどんどん増えてくる。
皆、噴水(生きる喜びの泉)に向かっているようだ。

「ここらへんええんとちゃいますか?」
「そやな」

オオツキさんとボンボンが場所選びをしている。
もう習性で人の流れを見ると場所を探している。
警官を見るとさっと逃げようとするのと同じだ。

「今度は英語やで」
「えー、プリーズカムヒア。えー、ハウマッチ?」
「なんやそれ」
「何ポンドで売るんや?」
「知らんがな。誰かちゃんと計算せえよ」
「5ポンドでええんとちゃうか?」
「マジックと紙かしてくれ。ポンドてどう書くんや?」
「これでいけるやろ」

さあ、布を広げケッテを並べて販売開始。オオツキさんが
関西なまりの英語で呼び込み。ボンボンがかた膝ついて、
「ハーイ!」とケッテを手にして人目を引く。オガワは

「ねえ?どう?」と立ったまま、ささやくように声をかける。
1時間ほどで10本売ってさあカウントダウンへ。大噴水の
ほうはすごいひとだ。寒いのに噴水の中に入ってるのがいる。

どこにでもいるなこのてのバカは。オサムも20歳の12月に
鴨川に飛び込んだことがあったっけ、若さと酒の勢いのせいだ。

できるだけアラブを避けて人ごみの中へ分け入る。さあ、
カウントダウンだ。50・・40・・30・・20・・
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ!

パン!パン!パン!と花火が上がる。爆竹が鳴る。一斉に噴水に
飛び込みよる。肩を組んで踊りよる。あちこちキスしよる。

わしらも何かせなあかん!何か知らんバンザーイ!を三唱以上
何回も繰り返していた。1974年の幕開けだ。と、突然。
オサムに女の子が飛びついてきてキスをした。なにこれ?

つぎからつぎだ。ハッピー!オオツキさんもオガワもボンボンも
みんなハッピー!こんなん知らなんだ?
マメタン来なくてほんとによかった!
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