デュッセルドルフの針金師たち後編

その頃マメタンは

カーナビーストリート、オックスフォード大通り、
ボンド大通り、リージェント通り。ぐるぐる歩き回って
皆ドレスアップする。オオツキさんは濃紺の3ピースに

かかとの高い黒靴。こうもり傘と山高帽をかぶれば、
まるでチャップリンだ。カーナビーで懐中電灯を探していた。
グラフィックデザイナー志望のオガワは、黒のタートルネックに

濃いブラウンの短めの革ジャン、同色のパンタロンに
セミブーツ。さすが芸大だが、何かパターンはいつも同じだ。
さて、ボンボンとオサムくんはハリボーンの三つ揃いを

なんとかレディーメイドで探そうと努力した。靴はこれまた
今はやりの丸先っぽかかと高い高いぽっくり靴。けつまづきそう。
下手な歩き方をするとめちゃくちゃ格好が悪い。とにかく皆揃った。

「オオツキさん、ひざ曲がってますよ」
「このくつ重い。なおらへんのや」

とバフバフ歩く。オガワ以外の3人は似たりよったり。
さあ、コペンに戻って結婚式を挙げるぞ。へんてこ4人組は
カルマンギアに乗ってロンドンをあとにした。

その頃マメタンは、若き弁護士の卵としりあって、なにかと
彼を使いまわしていた。彼も初めてのことなので、汗をかきかき
必死で努力していた。彼を前にマメタンはつぶやく、 

「えーっと、中央駅のキオスクでボックブルストとポンフリを
買って、その時ショルダーバッグをキオスクのテーブルの下に
置いたのよね。男の人が2人ほどビールを飲んでたわ」

「時間はいつごろですか?」
「確か夕暮れ時だったから5時ごろだったと思うわ」
「バッグの中身分かりますか?」
「えっ、そんなに詳しく書くの?」
「ええ、ここに中身という意味のことが書いてあります。
できるだけ詳しくとのことです」
「困ったわね。まずパスポートでしょ。住所録の手帳でしょ。
ハンカチ。ティッシュ。コンパクト鏡にお金が少し」
「何マルクくらいですか?」
「そうね?お財布は別だったから、硬貨だけ10マルクくらい」
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