怪談短編集
俺は平静を装った。
「なー、何だよー、この音はー」
バラーが、言った。
そのとき、船が靄を突き抜けて現れた。
キィィィィ。ギィィィィ。
音の正体は、この船だった。
「この船、何だよ?」
「もしかしたら、誰か乗っているかも!」
バラーが、さっきとは打って変わった声色で。
「おーーい!おーい、誰かいませんかぁぁ?」
返事は、ない。
「誰も、いないんじゃないか?」
俺はバラーを止めた。
「中に入ってみようぜ」
何だよ。
さっきまで、あんなに怖がってたくせに。