怪談短編集
まさに、幽霊船じゃねぇか。
「っていうかさ、アレックス」
「ん?」
「あれ、見ろよ」
あれ、というのは、この妙にヌルヌルした物体。
「これさ、至る所にあんだよ。ほら」
バラーは船室を指差した。
俺は、船室を覗き込んで、絶句した。
壁や、モニターにまで、物体はへばりついていた。
まるで、この船から湧いて出たみたいじゃねえか。
「これさ、ウナギみたいで、気味悪くね?」
バラーが、顔をしかめながら。
「どの部屋を見てもさ、こんな状態なんだよな」
考え中に悪いが、俺はそろそろカヌーに戻りたい。
「バラー、ここには助けてくれる奴はいねぇ。カヌーに戻ろうぜ」
バラーが頷く。
俺らは船室を出て、ロープを垂らしておいた手すりに戻った。