怪談短編集

 すると、母さんが、

「東京に引っ越したって、こっちの塾に通えなくもないわよ」

 にこやかに言う。

 そういう問題じゃないんだけど。むしろ、この塾は最悪。

 けど、母さんにそんなこと言える筈もなく、僕は小さく頷いた。

「ところで、父さん。何で引っ越すことになったの?」

 僕は恐る恐る聞いた。

「異動になったんだ」

 僕は、父さんの上司を恨んだ。僕が、大切な時期に限って…。

 親友には会えなくなるけど、会いにこればいいかな。

 僕は一人で頷いた。もう二度と、会えなくなるわけじゃないんだから。そう言い聞かせながら。

< 4 / 195 >

この作品をシェア

pagetop