怪談短編集
一段ごとに

1.誕生日プレゼント



 今日は、梨子の誕生日だった。

「おめでとう」

 朝、起きてすぐに母が言い、昼頃に思い出したように兄が言った。

 梨子の誕生日は八月九日。夏休みの、真っ只中だ。だから、友達には祝ってもらえない。友達五人は携帯を持っているのに、梨子は持っていないから、メールも無理だ。

 誕生日に携帯を頼んだが、頑固な父も平和主義の母も承諾してくれない。理由は簡単だ。梨子が犯罪に巻き込まれたら嫌だからだ。現に、三つ上で高校二年の兄も未だに携帯を持っていない。

 毎年、誕生日プレゼントは父が選ぶ。梨子が欲しい物をねだって買ってもらったことはない。欲しいなら、お小遣いを貯めて買えばいい。それが、父の考えだった。
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