好きって言えよ[恋愛短編集]
心臓の音がやけに五月蝿く聞こえる。
手足はヒンヤリとしているのに対して、胸が熱い。
教室の中では今しがた結ばれたカップルが身を寄せ合っていて、
私はそれをまともに見てしまった。
私の視界に映った青年は見慣れた顔で、
それは今朝方 自分の下駄箱にラブレターを入れた人間だった。
私はため息をついて、
カーディガンのポケットの中に手を忍ばせた。
カサリとわずかな音をたてて出てきたのは、
私に無駄な期待を与えた憎い紙切れで。
私はそれを一思いに引き裂くと、
廊下の隅に置かれたごみ箱に捨てた。
「馬鹿みたい…。」
思わず零れ出た独り言に、
自嘲気味な笑みを漏らす。
本当に馬鹿みたいだ。
白河 洋平が関崎 千夏と両思いなのは、
本人たちが気づく前からなんとなく気づいていた。
だから焦って私は噂を流したのに、
これでは何の意味もなさない。
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