なりすまし
母さんはいつもに増して慌てていた。


「今日母さん寄るところがあるから早く出るの。早くしてね」
「わかった」

そう言うと俺は洗面所で顔を洗い、口を濯いで食卓につき朝食を食べた。


我が家には父親がいない。
俺が小学に入る前に病気で死んでしまった……とだけ聞かされている。

詳しいことは知らないが、今のところ知ろうとも思っていない。


朝食を終えると、歯を磨いて寝癖で荒れに荒れた髪を整えて、いつもより早めに家を出た。


車がない。
いつの間にか母さんは仕事に出かけていた。


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