なりすまし
母さんは国立病院に務めている看護師だ。

いつも車で15分かけて通勤している。

今日はどこかに寄ると言っていたが、こんなに早く出るとは、どこか遠いところにでも寄るのだろうか。



俺は家から約二百メートルのところで携帯を自分の部屋に忘れてきたのに気づいた。

「ふぅ……」

俺は小さなため息をつくと、さっき通ったばかりのつまらない道を引き返した。

いつもより20分近く早く家を出ているので全く急ぐ気持ちはなかった。


「あらら?悠太?」

何だこんな朝っぱらから。

「漆原悠太じゃないか!!」

いちいち名前を言われなくても、自分の名前くらい覚えているのだが。


「何で学校と逆方向に歩いてるんだ?」

こいつの名前は上田脩。俺のクラスメイトで高校1年の頃から一緒。今年で2年目だ。

「忘れ物したんだよ」

俺は目も合わせずにぶっきらぼうに答えると、少し歩調を早めて脩の前を通り過ぎた。

「そうか。まぁ、なら急げよ。今日朝テストあるって『ゴリヘン』言ってたぞ」


そうだった!
俺は少し駆け足で自宅へ急いだ。

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