妖狐の姫君
嘘でしょ。
私は一体どこに飛ばされちゃったの?
「待て待て。ここで騒ぎを起こせば主も黙ってないだろう」
「そうだ、そうだ。俺たちが勝手なことやっちまえば俺たちの命もないわい」
助けて。
とりあえずこの場所から私を出して。
「ふん、知ったことか。さっさと食っちまえばわかんねぇって。ほら立て人間」
群がる周りから一匹の狼はぎろりと睨みをきかせて牙を剥く。
肉を切り裂くように鋭い爪を光らせて。
恐怖であり、力ついた体は起き上がろうとしない。
「おい、立て!人間」
毛の生えた生臭い手で私の手をつかんで立たせようとする。
やだ。こんなところで死にたくない。
強引に引っ張り無抵抗のまま立て膝をついてそれのまま引き摺ろうとした。
思いはやがて儚く消えていく。
こんなことなら望まなければよかった――‐‐
と、そこへ。
「こんなところで晩餐会でもおつもりで?ならば僕は黙っていられませんよ?」
囲いこむ集団が振り向く先には1人の人間らしき人物。
上品に着飾る衣装が目について私は目が離せなかった。
「ライメイ様。どうしてこちらに……」
「下町の様子がおかしいとのことで顔を見せに来たのです。そちらは?」
「あ、はい。雌の人間でございます。光に包まれて道端で横たわっておりましたので今そちらに引き渡そうと考えておりました」
賢明な判断だ、とライメイと名乗る男は妖怪の輪のなかに入り私を見た。