お許しください、大佐殿 【密フェチ】
お許しください、大佐殿
「おかえりなさいませ、大佐殿」
「うん」
上官である准将の主席側近、秘書室室長、大佐の貴方。
この秘書室長室に帰ってくると必ず制服のジャケットを脱いで椅子の背にかける。
「疲れたよ」
ゆったり椅子に座ってネクタイを緩めながらのその一言もお馴染みで、それを聞いたら私はお茶を淹れる。
人は笑うかもしれないが、大佐殿は熱い紅茶が好き。外では上官に合わせて珈琲。
だから。ここで彼はくつろぐ。
「うちの准将と、あちらのミセス准将が、また派手にやり合ったんだ」
「どちら様も相変わらずですこと」
いまや戦闘機パイロット達の女王と言われている女将軍様と、息もつかせぬ駆け引きはいつものこと。
「それで。また頼むよ。あちらのミセスのご機嫌取り」
「またですか。そんな、私ごときのすることなど」
「君が選んだ紅茶葉。すごく良かったと喜んでいた。また頼む」
ライバル部隊の女王様も、彼に負けず劣らず、紅茶好きだった。
私はため息をつきながら、大佐殿のデスクに熱いティーカップをおいた。気が進まない様子の私を、彼は勝ち誇った微笑みで見つめている。
「頼むよ、君だから頼んでいるんだよ」
いつもそう。私がなんでも言うことを聞くと思っているのがちょっと癪に障る。
「高くつきますわよ」
「高くって?」
いってごらん。君の言うとおりにするよ。
他に誰もいないのに。彼が息だけの声でそっと囁いたので、私は囚われたように動けなくなる。
「カクテル五杯。大佐殿のいつものバーで」
思いついたのがそれだった。
「安いな。お安いご用すぎる」
彼がすごく笑ったので、私はむっとする。
「私には充分です!」
業務に戻ろうと背を向けようとしたのだが。
ネクタイ。私の制服のネクタイを彼がひっつかんで、手綱のようにして、彼が引っ張っている――。
「た、大佐」
「御礼は……『今夜、君の部屋に行く』で、どうだ。そろそろ、いいだろ」
笑っていたのに。急に彼の目が、仕事をしている時と同様の鋭い目。
「俺にとっては、『高いこと』なんだけど」
さらに、彼が私のネクタイをぐいっと引っ張った。
ついに私は座っている彼の胸元に倒れ込んでしまい抱きしめられていた。
「お許しください。大佐殿」
無言の彼がさらにネクタイを上に引っ張る。
私の顎が上に向いたところで、唇に熱くて甘い味が広がっていた。
ネクタイは、手綱じゃありません。
大佐殿は、やっぱり笑っていたけれど――。