風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
そして、今度は俺に視線を向ける。

「陽斗さん、あなたもさっきはあんな風に言ってましたけど、会長の事嫌ってなんかいませんよね?
むしろ大切に思ってる。
だって、それなら安曇Gr.の会社で働こうとはしなかった筈ですから。
陽斗さんなら、どこでだってやっていけた筈です。
でも、あなたはそうはせずに、ここにいる。
専務になったのだってそうです。
本当は設計の仕事、続けたかったのに。
陽斗さんは会長の人事に従った。」

俺は何も言い返せなかった。

勿論、図星をつかれたからでもあるが、それよりもっと。

目の前にいる彼女に魅了されていた。

「もっと、お2人でお話するべきです。
言葉で伝えないと気持ちが伝わらないことって沢山あるんですから。
お互いの事、大切に思っているのに・・・。」

彼女の観察力は見事なものだった。

恐らく、彼女が今この場で述べたことは全て当たっているのだろう。


「それで君の言いたい事は全部かね?」

それまで話を先に促すだけだった祖父が、ここで話の終焉を告げる。

その表情からは、何も読み取れない。

やはり祖父には何も届いていないのだろうか?


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