風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
「薫さん、私に連いて来なさい。」

急に話しかけられて慌てる私を後目にそれだけ言うと、会長は階段から消えた。

私は川辺さんに小さく頭を下げると、急いで階段を上る。

会長を見失わない様に。

2階に上がると、会長は私を待ってくれていた。

現れた私を確認し、先に歩を進める。

私はその後に続いた。

どちらとも言葉を発することなく無言で。

数歩歩いた所で1つの扉の前で会長は立ち止まり、扉を開けた。

そして、私に先に入るように促す。

「失礼します。」

私はそれに従い、扉の前で一度頭を下げて部屋に入った。

奥の壁には沢山の書籍が並ぶ本棚が天井まであり、それに背を向ける形で木製の机が置かれている。

後ろでドアが閉まり、会長は机の前の部屋中央にあるソファに座った。

「そこに座りなさい。」

そう言って、向かいのソファを指差す。

私は素直にそれに従い会長と向き合った。

「お時間を作って頂き、感謝します。」

もう一度私は頭を下げる。

「私は回りくどい話が嫌いだ。
だから、単刀直入に話しなさい。」

彼の目は笑うでもなく怒るでもなく、ただ私を直視する。


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