風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
会長が私に感謝?

「陽斗がこの家に来たとき、あいつは小さな体で弟と妹を庇うように必死に私の盾になっていた。
そして、ことあるごとに私に立ち向かってきた。
あいつは父親と違い、負けん気が強い。
陽斗の父親はすぐに逃げだしてしまったからな。
しかし、あいつは自分が正しいと思ったことは絶対に曲げずに実行に移す。
陽斗は私にとても似ている。」

彼は笑っていた。

昔を懐かしむ様に。

「私は孫を見たとき、とても救われた。
息子が死に、心にぽっかり穴の空いた状態だった私に差し込んだ光だ。
それと同時に、どう接すれば良いのか困惑した。
私も頑固だからな。
孫の意見を素直に受け入れることは、なかなか難しい。
時には辛く当たってしまったこともあっただろう。
最近は祖父と孫として会話を交わすことも少なくなってしまった。」

私はただただ、びっくりするだけだった。

まさか、会長からこんな話を聞けるなんて。

「だが、昨日お前さんにはっきり言われて気付かされたよ。
私が気付かない振りをして、今まで見ないようにしてきた問題に。」

会長は閉じていた目を開け、私に笑った。

とても穏やかに。

それは孫の事を想う祖父の顔。

私の心もとても温かくなる。

「私は何もしていません。それより今の言葉を直接本人に言ってあげて下さい。
昨日も言いましたが陽斗さんは口ではああ言ってますけど、本心は会長の事大切に思っています。
あの人は会社経営するより、自分で設計して物作りをする方が好きな人です。
だけど、彼は会社を継ぐ事を自分で選んだ。
それは誰の為でもない会長、あなたの為です。」


< 129 / 141 >

この作品をシェア

pagetop