風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
突然昨日と同様、大きな笑い声が室内に響く。

「やはり、君は面白い。
君が我が社からいなくなるのは、とても大きな損害だ。」

またまた私はびっくりする。

「・・・・どうして。」

「そんなものは君を見ていればわかる。
私を舐めてもらっては困るよ。」

やっぱり会長には勝てない。

全部お見通しだ。

「薫さん、今の仕事は好きか?」

「はい。」

私は素直に答える。

「では、何故辞めようとする?」

「彼の近くにいるのが辛いんです。
彼は何れ、大切な人を見つけると思います。
私ではない誰かを。」

そんな彼を近くで見るなんて、私には耐えられない。

「後悔しないのか?
一時の感情に流されて、自分の大事なものを捨てて。
暫く経てば、孫の事をそれ程好きではなかったことに気付くかもしれない。」

会長はそう言って、意味深に笑った。

まるで私を試すかの様に。

「それはありません。
この気持ちは、そんなに簡単なものではないですから。
初めてなんです、人をこんなに愛したのは。
それに、設計の仕事はここじゃなくても出来ますから。
だけど、陽斗さんは世界にたった1人しかいないんです。
これから先、私には彼より好きな人は現れない。」

だったら、彼の前から去るしかない。

少しでも傷が浅いうちに。


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