風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
「そんなに孫のことが好きか?」

「はい。」

私は会長に素直に答えた。


「そうか、孫は幸せものだな。」

そう言って会長は、また微笑む。

そして今度はすぐに真顔に戻った。

「私も君に隠していたことがある。
薫さん、私は孫と君の交際が芝居だという事を初めから知っていた。
だから、君が私に謝る必要はないのだよ。」


私には意味がすぐに理解できなかった。

だって・・・、そんな訳・・・。

「・・・そんな筈ありません。」

そもそも、知っていたなら会長の行動に矛盾が沢山生じる。

会長は何故、私が陽斗さんと一緒に住んでいることを容認していたの?

何故何も言わずに昨日、私を屋敷に招き入れたの?

その上、縁談の話までなぜ破棄に?

「腑に落ちないという顔をしているね。
私がわざわざ君を屋敷に呼んだのは、君を試す為だよ。
どんな娘か自分の目で確かめる為にね。
だから、わざと君の自尊心を傷つける様な質問をぶつけた。」

そう、確かに会長の質問は、いつもなら私の心に大きなダメージを与えていた。

「私は君を侮辱した。
君のことを会社にも孫にとっても価値のない人間だとはっきり決めつけてね。
私にそこまで言われたら、大抵の人間は引き下がる。
だが君は、怯むどころか私に立ち向かってきた。
感情論ではなく、論理的な分析力で。
途中から本来の目的を忘れ、君との会話を楽しんでしまったよ。」


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