風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
俺はあの日から会社に泊まることが多くなった。

会社の自室で仮眠を取った後、明け方に彼女のいる俺のマンションに帰り、シャワーを浴びて薫を乗せて出勤する。

これが最近の俺の日課だ。


理由は俺の勝手な都合。

以前、彼女は俺を苦手だと言っていた。

嫌いじゃないけど苦手だと。

だが、一緒に過ごしたこの1ヶ間で、少なくともその苦手意識は和らいだ。

と、俺は思っている。

だからあの送別会の夜、俺は1つの小さな賭けに出た。

いつもなら小泉さんの行為を早々にあしらうのに、その日だけは好きにさせておいたのだ。

そしてそれを見た彼女の反応は、期待以上のものだった。

あの日、彼女はかなり酔っていて俺に感情をむき出しにした。

他人に弱みを見せることが苦手な彼女にとって、俺の前で流した涙はきっと、大きな意味を持つだろう。

そして車の中でひとしきり泣いた後、俺の胸の中で眠ってしまった。

躊躇いもなく泣く彼女は、いつもの彼女とは正反対でとても素直で無防備で。

誰にも見せない一面を俺に見せた。

だから、俺を受け入れてくれたのだと思った。


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