風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
玄関に到着すると、俺は奥に聞こえる様に声をかけた。

すると、懐かしい見知りの顔が現れる。

「陽斗さま、お待ちしておりました。」

そう言って、彼は俺に頭を下げた。

昔から祖父の身の回りの世話や秘書的役目も果たしている彼は、俺がこの家に来た時には既に祖父の隣にいた。

祖父が最も信頼している人物の1人だろう。

俺にも小さい頃から良くしてくれた。

「久しぶり、俊彦爺。大事ないか?」

「はい、すこぶる元気でございます。
まだまだ、くたばったり致しませんぞ。」

彼はガッツポーズをして微笑んだ。

俺も連れて笑う。

昔から変わらないこの笑顔に、俺は随分助けられた。


「彼女、香坂薫さん。」

俺は隣にいた薫を彼に紹介する。

「初めまして、香坂です。」

彼女は丁寧に会釈をした。

「おや、可愛いお嬢さんですね。
旦那様のお世話をしております、川辺と申します。
さあさあ、2階の客間へどうぞ。
皆様、もうお集まりですよ。」

彼は笑顔でそう答えた。

薫もその顔を見て、ホッとした様子を見せる。

そのまま案内しようとしてくれる彼を、俺は止めた。

「いいよ、場所分かるから。俊彦爺は他の仕事して。」

彼の仕事は山の様にあるだろう。

何せこの広い家のことを全部取り仕切って、その上祖父の身の回りの世話までしているのだから。

「そうですね、ここはあなたの家でした。
では、お言葉に甘えまして。直ぐに冷たいものでもお持ちします。」

そう言って一礼し、彼は奥へ下がって行く。

爺が消えると、『優しそうな人ですね。』と言って彼女は微笑んだ。


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