薔薇を食する少女達
  






 胸に、聖水で絵の具を溶かしたイコンが押しあてられた。
 その少女(ひと)の、清らかな眠りについた心臓は、救世主の後光を貫いた杭の尖端の鞘になった。
 福音の呪詛に縛られて、一度血を見ればいかなる獣よりも残虐になれる、人間達の憎悪の念になぶられながら、乙女の姿をした異界の少女は喘ぎ苦しみながら斃れ落ちた。
 来世を約束させまいと、美しい少女は四肢を断たれた。それは真紅に染まった白薔薇(しろしょうび)の花びらの如く、儚い最期の瞬間だった。

 一つの塊ではなくなった、少女の死肉は、粗末な木箱に収まって、深い土に還っていった。
 冷たい土に、慈しみ深い神がせめてもの供養にと、流し給うた涙が染み入ったのか?雨でもないのにほんの少し湿り気があった。

 「釘を抜いて、木箱で眠っていた彼女に……接吻、した。目覚めるはずないのに」

 聖良は、じっと美苑の話を聞いていた。
 それはお伽噺のようで、どこか遠くの世界で起きたもののようだった。それでいて、胸が抉られる思いがした。

 大寺百瀬──。

 かくいう名前を持つ少女を懐かしむ、美苑の顔は、今までになく美しい。
 あでやかなだけでない、狂おしいほど誰かを愛し、失った、哀惜の情が彼女をより美しくしているのか。

 大切な人と分かたれた。
 美苑は、永遠に等しい長い長い命を得て、悲しみを背負って生きてきたのだ。

 どれだけ苦しかったろう。
 孤独、だっただろう。

 聖良を抱き締めてくれていた美苑の腕が、離れた。
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