薔薇を食する少女達
  
 「聖良は生きろ。百瀬のことを話すほど、気に入ったのは君が初めてだ。君を彼女と、同じ目に遭わせるわけにはいかない」

 「それだけ想ってくれているなら、私は美苑と一緒に生きる。百瀬さんのこと、美苑が愛していても私、おとなしくしている。側にいさせてくれるなら」

 「闇がどれだけ寂しいか……分かってる?神にも見放された世界の中で、優しい人間を傷つけて、何もない、感情も忘れていくようなところだ。君には似合わない」

 「いや、と、言っても?連れて行って……くれないほど、私じゃ美苑に釣り合わない?」

 「そうじゃない」

 「私が美苑の血を飲めば、同じになれるんでしょう?別れなくても良くなるし、死なずに済む。一緒にいられる!」

 聖良は美苑に縋りつく。

 修道女達が、もうすぐそこまで迫ってきていた。

 「聖良……」

 まるで別離のようなキスが、聖良の唇に落ちてきた。

 「美苑……愛してる」

 愛している、と、囁きながら交わす口づけは、もはや恋(エス)のしるしではない。
 こんなに甘いキスをくれるのに、聖良を守ると言いながら、美苑はまた一人でどこかへ行こうとしている。

 聖良は、このままでは美苑に捨てられる。

 だから、決めた。

 「ごめんね」

 聖良は、柔らかな美苑の唇に、歯を立てる。
 力を入れて、瑞々しい果皮を僅かに裂いた。

 「……っ」

 美苑の唇に、赤い、赤い紅が滲み出す。
 聖良は、鉄の味がするそれを舐める。傷口から美苑の命を啜る。

 最愛の少女の血液は、涙が出るほど甘かった。

 「……莫迦」

 「莫迦で良いの。美苑が好き。だから、莫迦でいさせて」

 人でなくなっても構わない。

 聖良は美苑の手をとった。
 立ち上がる。二人して、廃校舎の裏口を目指して駆け出した。







──fin.
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