薔薇を食する少女達
着物の袂を抱え上げて、裾からレースの覗いた袴をつまみ上る。
聖良は、裁縫室を飛び出した。
* * * * * * *
ああ、まただ。
愛して、守ってあげたかった少女を、殺してしまう。
頬を涙で滅茶苦茶にして、目を真っ赤にして泣き続ける少女を、月浦美苑(つきうらみおん)は、どこか達観した心持ちで眺めていた。
美苑の可愛い恋人は、女学校に入って一年と九ヶ月という、あどけない年端の少女だ。
これからすべき経験がたくさんあるし、現世に留まるべき人間だ。闇に魅入られてはならない。
美苑は少女を大切にして、二人の恋(エス)が甘いだけである内に、終止符を打ちたかった。
だから、今し方別れを切り出した。それなのに、無垢であるが故にわがままでもある恋人は、美苑の思惑を理解してくれない。
「お姉様と別れたくない……琴葉はお姉様のものです。他に何もいりませんっ」
「私の可愛い仔ウサギちゃん。君を愛している。永遠に。でも、一緒にはいられないんだ」
「ひく……な、で、何でですか?!」
「琴葉は、分かってるだろう?」
「分かってます!血は、いくらでも……全部、琴葉の血も心も、全てお姉様のものです!」
「これ以上もらったら、君が危ない。生きてる琴葉が好きだから、お別れはかなしいけれど……」
「っ……。一人になっちゃう。琴葉、お姉様に会えなくなったら……生きていけません……」
美苑は、自分のために惜しみなく涙を流してくれる恋人を、初めて愛おしく思う。
昨日までは飲み物でしかなかったのに、別れが来て、初めて本当に愛があったと気付かされるのだ。
琴葉だけではない。今まで付き合ってきたどの少女も同じだ。
だから、尚更、自分を慕ってくれる少女の血が生命維持の薬になる体質を持つ美苑にとって、彼女のような恋人は厄介だ。
血を吸い尽くせば、命も尽きる。
唯一、死を避ける方法もあるが──さすれば彼女も、美苑と同じ体質を得る。
それ故、愛おしい恋人の血が尽きるまでに、恋(エス)の縁を断ち切らねばならないのだった。
「琴葉」
美苑は、長いお下げをリボンで結んだ、小さな少女を抱き寄せる。
矢絣の着物の袂から、懐かしい故郷の花の如く匂いがした。
「君が聞かせてくれた竹取のお姫様の話は忘れない」