薔薇を食する少女達
  
 大粒の涙に口づける。
 琴葉がくすぐったそうに身をよじる。

 「お姉様は……月にお帰りになっては、いやです……」

 「月じゃない。私の故郷は、暗くて、寂しいところだ」

 「一緒に行きたい」

 視線を感じたのは、琴葉の手が、美苑の袂の裾を握った時のことだ。

 美苑は振り向く。

 「……──っ」

 瞬間、美苑の胸が、久しく騒いだ。

 「あな、貴女達は……」

 見知らぬ少女の唇から、慄然たる呟きが、こぼれ出た。
 教室の扉の側に、まるで、今し方琴葉と話していた月の皇女を彷彿とする、一人の少女が立っていたのだ。
 ガバレットにした黒髪は、艶やかで、白い頬は磨いた白亜の如くまばゆい。薄い紅の浮かんだ頬は、高級な砂糖菓子のようだ。
 着物も、袴も、至るところにフリルやレースがあしらってあって、型破りな着こなしが、少女をひとしお異界の高貴な姫君のように見せている。
 思慮深そうな瞳の奥に、言い知れぬ官能的な憂いが、見え隠れしていた。

 「君は……」

 美苑の腕が、琴葉の身体からほどけていった。

 ──彼女を、今一番に、愛しているから。

 弾かれるようにして、美苑は、まみえたばかりの少女を抱き寄せた。
 琴葉に、別れ話を納得させるためか。
 名前も知らない美少女に、いわゆる一目惚れした所以か。

 美苑自身、分からなかった。

 少女の甘美な溜息と、琴葉の涙にまみれた嗚咽が、冬の冷たい空気にとけて重なった。
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