誘惑は夜に【密フェチ】
「ただいま」


一足先に帰宅していたあたしは、彼からフイッと顔を背けた。


「……何か怒ってる?」

「今朝の事、よく思い出して」


悪びれない声にムスッとすると、理由を察したらしい彼がクスッと笑った。


「ネクタイ、外してくれないの?これもお前の役目なんだろ?」


余裕な口調がムカつく。
朝の情事を楽しみにしていたのは、自分(アタシ)だけだったのかもしれない。

不意に、彼があたしの隣に腰掛けた。


「あのままキスしてたらまた残業する羽目になって、夜にゆっくり出来なくなるだろ?」

「え?」

「夜の方がお前を堪能出来る」


その意味を理解した瞬間、唇が重なった。
さっきまで怒っていたのが嘘みたいに、心が甘い感覚に包まれる。


彼はニヤリと笑って、首を傾げた。


「ネクタイ、どうする?」

「もちろん……」



彼のスーツを着せるのも、彼のスーツを脱がせるのも、あたしの――。





             END.


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