魔王に甘いくちづけを【完】
「・・・頼む、目を覚ましてくれ」


頬がすごく熱くてじんじんする。

何だか腕まで痛い気がする。

右腕に、ぎりぎりとしたねじられるような圧迫感を感じる。

気のせいではなくて、どんどん強くなってて・・・。



「ん・・・ィ・・イタイ・・・いたいっ」

「っ、それについては後で何度でも謝る。だから頼む。起きているのなら目を開けてくれ。頼むから」



焦ったような、懇願するような声。

早口な言葉と一緒に腕の痛みがぐぐっと増した。

でも、目を開ける気にならない。

瞼がとても重い。このまま眠っていたい。




「そんなにしなくても大丈夫ですよ。ほら、もう起きてますから・・・あぁ、もう、全く。・・知らないですよ。後で嫌われても」



宥めるような落ち着いた野太い声。

この声はジークだわ・・・だったら、これはやっぱりバルの声・・・。



「いい。起きてくれるのなら、この際嫌われても構わん」

「い・・・っ・・・痛いわ」


頬に再び感じた痛みに顔をしかめ薄く目を開けると、バルの顔がすぐそこにあった。

眉間にしわが寄ってて眼光が鋭くて、怒ってるように見える。



・・・何で?怒ってるのは私の方なのに。

貴方がそんな顔をするなんて、おかしいわ。


腕も頬も、何故か背中までもが痛い。


腕から圧迫感が消えたので、イタタ・・と呟きながら体を起こそうとしたら、背中に手が添えられた。



「体中痛いのは当たり前だ。あんなところで寝てればな」


―――あんなところ・・・?


「・・きゃぁっ」


完全に体が起きたところでふわりと持ち上げられて、またソファに戻された。

謎の行動を不思議に思ってると、気になるんだろう、と言いながら裾の位置を直してくれた。



「バル様、それじゃぁ言葉が足りません。すまんな、俺が説明しよう。侍女の知らせを聞いて俺たちが来たときには、お前がそこの床に倒れていたんだ。呼びかけても反応がなくて、心配したんだぞ」


言いながらジークがテーブルの傍の床を指し示した。



「侍女の話と考え合わせるに、課題をやってて眠ってしまったんだろう。で、椅子から転げ落ちた、と思うんだ。もちろん覚えていないだろうが。あちこちが痛いはずだ、頭を打ってないといいが。どうだ、痛みはないか?」




失礼、と言って体の前に来たジークが頭に触れながら確認している。

時間が経つにつれ、ぼんやりとしていた思考が徐々にはっきりとしてきた。
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