魔王に甘いくちづけを【完】
リリィはほどなく戻ってくると花瓶に花を差し入れて、いつも通りに話を始めた。

今日は出かけた話。

ジークの家にも寄って来たようで、お喋り材料がたくさんあるらしく当分は止みそうにない。

笑いを交えて面白おかしく話してくれて、沈み込んでいた心を軽々と引き上げてくれた。

楽しい時間を過ごしながら、リリィが一緒にいてくれて良かった、と心から思う。



暫くすると、遠慮がちに叩かれたノック音の後、そぅっと・・・といった感じでゆっくりとドアが開かれた。



「あ、悪りぃな、邪魔して。・・・おいリリィ、もういいか?俺、いい加減腹が減ったぜ」



うんざりとした顔つき。

不機嫌そうな口調。

だるそうにドアに寄りかかる、いつものザキが顔を見せた。


―――え、もしかしてずっと廊下にいたの?

一緒に入ってくれば良かったのに―――


「ザキ、久しぶりね。どうぞ、入って。お腹空いてるのならお菓子あるわよ」


アワアワしながらもテーブルの上にある菓子器を示して声をかけると、ザキは大きな両手をぶんぶんと振って言った。


「構わねぇでください。ジークやバル様と違って俺はここには入れないんすから」


と言って、ドアを開けたままで決して部屋の中には入ってこようとしない。


「リリィ、もう行くぜ?」

「っ、そうだったね。ごめんね、ザキ。今行くわ。ユリアさん、私たちご飯まだなの。食べてくるね」


急いで立ち上がってザキの傍に駆け寄っていく。


「ザキ、ごめんね。つい夢中になっちゃった」



申し訳なさそうに見上げるリリィを、いつものことだろ、と言って目を細めて見下ろすザキ。

うんざりしていた顔が、見る間に優しげに変わっていく。

声も違うように聞こえるのは、気のせいだろうか。



「まぁ・・俺は、いいけど。お前が腹減ってるだろ、と思ってな。明日も早いんだろ?早く寝んとな」

「うん、そうだけど。でもこれでも、少しの夜更かしくらい平気なんだよ」



そか、と短く呟いたザキの手が自然にリリィの腰に当てられる。



「ご飯食べたら部屋に戻るね。じゃ、おやすみなさい。ユリアさん」

「おやすみ。また明日ね」



振り向いてとびきりの笑顔を残し、リリィとザキは仲良く去っていった。

どうやら二人の間は上手くいってるみたい。


私は・・・この先、どうなるのかしら・・・。

ううん、今は考えるのは止そう。

分からないし、しょうがないことだもの――――


ユリアは再び襲ってきた不安な気持ちを打ち消すように頭を振り、ジークが置いていった水薬を飲み、ベッドに潜った。


灯りの消えた部屋の中で想う。




―――出来れば、出来ればでいいの。

今晩はラヴルの夢を見させて。


夢でいいから、貴方に会いたいの。

お願い。


おねがい―――――・・・
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