魔王に甘いくちづけを【完】
ラッツィオから場所は変わりまして。

ここは、ロウヴェルの都ケルン。

城の近くにあるのは、いつも人で賑わう商店街。

人々の笑顔が溢れ活気ある街――――のはずが


ここ数日間は、なんだか少し様子が違っているようで・・・。



「止まないねぇ・・・」


国一番の繁華街の真ん中で喫茶を営む店主は、グラスを拭く手を止め、表情を曇らせて大窓の外を見やった。

一番の賑わいをみせる時刻にもかかわらず、外の人通りは少なく喫茶の客足もさっぱり。

向かいの洋装店も実に暇そうだ。

手持無沙汰なのか、ウィンドウにある人形の服を、今朝から何度も着せ替えている。


数えるに、これで3回目くらいか。


こんなチェックを出来るほど、喫茶の店主も暇だった。



客はと言えば、カウンター席の肉体労働的な風貌の男二人。

この二人はよく来てくれる顔なじみの常連さん。

テーブル席のほうは、12席あるうちの2席にカップル風の男女が座ってるのみ。

いつもの賑わいは皆無と言っていいほどに静まっている。



「ここ最近、天気が悪い日が多いねぇ。嫁が洗濯物が乾かないってこぼしてましてねぇ。そろそろ天気になってくれないと困るんですがねぇ」



空はどんよりとした黒い雲が広がり、しとしとと静かな雨を落としている。

この雨は、もうかれこれ3日以上続いていた。

激しくないため日常生活にそれほど支障はないが、妻の機嫌が悪いことには辟易している。

店主の愚痴のような呟きに、カウンターで珈琲を啜る男達がそれに答えた。



「そうだなぁ。こんなに降り続くなんざ、滅多にねぇ。こりゃきっと、王様の具合が悪いんじゃねぇか?最近国作りもなさっておられねぇようだしなぁ。こりゃぁ、いよいよ代替わりじゃねぇか?」

「あぁ、そしたら次はゾルグ様か?」

「何言ってんだ。違うだろう、ここは、ラヴル様だろ?」

「お前こそ何言ってんだ。次はゾルグ様だ、あの方はなぁ・・・」

「・・ああ、違う違う―――」



カウンター席の男二人は、無遠慮にも議論を始めていた。

自分がぽつりと言った愚痴がこんな議論に発展しようとは思わず、ポカンとしつつもコレはまずいと思った店主が口を挟もうとしていると、その二人の会話を聞き付けたテーブル席のカップルが慌てて声をかけて来た。



「しぃっ、そこの貴方達声が大きい。それに、滅多なことを言うもんじゃない。何処に『耳』があるかわかったもんじゃないぞ」

「そうよ。無用心だわ。そういう話は家でして下さいな・・・貴方達、帰り道に気をつけたほうがいいわよ」
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