魔王に甘いくちづけを【完】
皆の関心を集めている渦中の人。


セラヴィ王は、城の中ほどにある謁見の間で玉座に座っていた。

ひじ掛けに肘を預け、頬杖をついて、見た目はとても退屈そうに見える。


眼前には跪く大臣が二人。

手元の床には、えんじ色の布で包まれた平たい箱が置かれている。

時候の話から始まり王の体調伺いまでする挨拶は常に長く、いい加減うんざりしたセラヴィ王は、手をひらひらさせて大臣の話を途中で遮った。

二人の用事は何なのか、大抵察しはついていた。



「・・・挨拶はもういい。雨が続いてるのも分かっている。明日には止ませるから安心しろ。で、本題はそれではないだろう。用件を早く言え」

「はい、本日は、セラヴィ様好みのレディの絵姿を持参いたしまして御座います」

「ふむ―――絵姿、か」



やはりな、と心の中で呟く。

皆自分の息のかかった者を妃にと薦めてくる。

自分の身内が妃になれば、執政を牛耳ることも可能だからだ。

私腹を肥やし、我が物顔で権力を振るう。

恐らくこの大臣もその口だろう。


それを避けるため、代々王は国外から妃を迎えてきたのだ。

私とて――――



「はい、左様で御座います。お好みを調べて持参しました故、今度こそお気に召されるかと存じます」

「・・・それを私が見ると思うのか?何度も言うが、私は貴様らの欲にまみれた縁故になど縋るつもりはない」

「また、その様なことを―――兎に角、どうか絵姿だけでも。ご覧いただければ、我らはそれで満足で御座います故」



二人の大臣が互いに目線を交わし笑顔で頷き合う。

大臣の一人がえんじ色の布を取り払い、セラヴィ王の前に進み出て「どうぞお改めを」と恭しく差し出した。

余程自信のあるレディのものなのか、不機嫌そうな顔をしたセラヴィ王の前でも、大臣達は笑みを絶やしていない。

それは、にこにこと言うよりも、にやにやといった方がぴったりくる笑いだ。



「・・・痴れ者が」


漆黒の瞳が真紅に染まり、平たい箱の中身を睨んだ。

途端に・・・ぽぅ・・・と炎が上がり、絵姿のみを塵も残さずに一瞬で焼き尽くした。

箱には、絵姿が乗っていた部分にもどこにも焼け焦げた跡はない。

そっくり絵姿だけをセラヴィは燃してしまったのだ。
< 203 / 522 >

この作品をシェア

pagetop