魔王に甘いくちづけを【完】
あのあと、怒る王妃様を苦労しながらも宥めた。
王妃様には弱いバルだもの。
疲れて旅から帰ってくるのに、怒られてはかわいそうに思えたから。
王妃様は、まだ、納得いかない感じだったけれど。
なんとか叱らないことを了承してくれた。
それよりも・・・。
“申し訳ありませんけれど、それは出来ませんわ。
貴女のお気持ちも分からなくはありませんけれど。
ユリアさん、貴女は候補とはいえ王子妃の身分なのです。
在城中ならばともかく、留守の間に他の殿方に合わせることなど出来ませんわ。
それがたとえコックであっても、特別な訳があっても、です”
『カフカ』出身のコックさんにお会いしたいとお願いしたら、王妃様は困った表情になってそう仰った。
“あの子が戻りましたら、改めてお願いして下さいな”
王妃のいなくなった部屋。
しーんと静まった中、ソファに座って独り考え込む。
テーブルの上には、後でも良いですからお食べになって、と置いていった色とりどりのお菓子が皿の上に整然と並べられている。
―――『カフカ』出身のコックさん。
どんな所に住んでいて、どうしてこの国に来たのか、それが知りたい。
そして『カフカ』がどんな国なのかも教えて欲しい。
彼は、私の知らないことをたくさん知ってるはず。
話したい、と思う。
どうにかして会うことが出来ないかしら・・・。
警備は厳重で、部屋からこっそり出ることなんて出来ないし、もし万が一出られたとしても、この広い城の中。案内がなくては王妃様の宮に辿り着くことも出来ない。
まして、顔も知らない人を探すなんてとても無理なことに思える。
かといって、案内を頼める人は誰も思いつかないし・・・。
「やっぱり、どう考えてもバルが戻ってからよね・・・」
ため息混じりに独りごちる。
バルはいつ頃戻ってくるのかしら・・・。
“少しばかりの間出掛けてくる”
そんなに長い日数はかからないような印象を受けたけれど・・・。
お馴染みのノック音が耳に届いた。
今日2回目の訪問。
遅くなってすまんな、と言ってジークが部屋に入って来た。
ドアの向こうにいる山のような体は、脇に避けていた。
ジークに対しては、何の警戒もしないらしい。
早足でザクザクと歩いてくると、ゴトンと重そうな音を立てて鞄を置いてテーブルを挟んだ対角に座った。
室長に、来てもらう必要はないと伝えてもらったのに、ジークはこうして来てくれる。
それはありがたくてとても嬉しいんだけど。
「大丈夫か?気を失ったと聞いたが」
早速ダークブラウンの瞳が探るように体を這う。
いつもの、ジークの視診が始まった。
王妃様には弱いバルだもの。
疲れて旅から帰ってくるのに、怒られてはかわいそうに思えたから。
王妃様は、まだ、納得いかない感じだったけれど。
なんとか叱らないことを了承してくれた。
それよりも・・・。
“申し訳ありませんけれど、それは出来ませんわ。
貴女のお気持ちも分からなくはありませんけれど。
ユリアさん、貴女は候補とはいえ王子妃の身分なのです。
在城中ならばともかく、留守の間に他の殿方に合わせることなど出来ませんわ。
それがたとえコックであっても、特別な訳があっても、です”
『カフカ』出身のコックさんにお会いしたいとお願いしたら、王妃様は困った表情になってそう仰った。
“あの子が戻りましたら、改めてお願いして下さいな”
王妃のいなくなった部屋。
しーんと静まった中、ソファに座って独り考え込む。
テーブルの上には、後でも良いですからお食べになって、と置いていった色とりどりのお菓子が皿の上に整然と並べられている。
―――『カフカ』出身のコックさん。
どんな所に住んでいて、どうしてこの国に来たのか、それが知りたい。
そして『カフカ』がどんな国なのかも教えて欲しい。
彼は、私の知らないことをたくさん知ってるはず。
話したい、と思う。
どうにかして会うことが出来ないかしら・・・。
警備は厳重で、部屋からこっそり出ることなんて出来ないし、もし万が一出られたとしても、この広い城の中。案内がなくては王妃様の宮に辿り着くことも出来ない。
まして、顔も知らない人を探すなんてとても無理なことに思える。
かといって、案内を頼める人は誰も思いつかないし・・・。
「やっぱり、どう考えてもバルが戻ってからよね・・・」
ため息混じりに独りごちる。
バルはいつ頃戻ってくるのかしら・・・。
“少しばかりの間出掛けてくる”
そんなに長い日数はかからないような印象を受けたけれど・・・。
お馴染みのノック音が耳に届いた。
今日2回目の訪問。
遅くなってすまんな、と言ってジークが部屋に入って来た。
ドアの向こうにいる山のような体は、脇に避けていた。
ジークに対しては、何の警戒もしないらしい。
早足でザクザクと歩いてくると、ゴトンと重そうな音を立てて鞄を置いてテーブルを挟んだ対角に座った。
室長に、来てもらう必要はないと伝えてもらったのに、ジークはこうして来てくれる。
それはありがたくてとても嬉しいんだけど。
「大丈夫か?気を失ったと聞いたが」
早速ダークブラウンの瞳が探るように体を這う。
いつもの、ジークの視診が始まった。