魔王に甘いくちづけを【完】
動き回るリリィのカーテンを開ける手とお喋りが、急にピタリと止まった。

背中の動きから、言葉と息を飲んでる様子が伝わってくる。



「リリィ、どうかしたの?外に、何かあるの?」


ベッドから降りてリリィを見ると、口をパクパクと開け閉めして外を凝視していた。

「ぁ・・あ・・・」と言葉にならない声も漏らしている。

何か余程驚くものが外にあるみたいで、カーテンを握り締めたまま固まって動かない。



「―――何か、怖いものでもあるの?」



―――こんな所に何が?ここは、城宮の最上階。

窓から侵入―――なんて、鍛えられたこの国の騎士でも無理なこと。

ここには誰も忍び込めない筈。

だけど、ここは魔の者たちが住む世界

何が起きても不思議ではない―――

そう考えると背中に冷たいものが走り、眠気が一気に冷めていく。



傍に寄って、恐る恐る向けられてる視線の先を辿ると、白いものが目に入った。

それは、鋭い瞳でリリィを見据え、湾曲した嘴を開き頭も動かして、体全体を使って鳴き声を出していた。

「ぴぃっ」

短く発せられるそれは、傍に寄ると窓越しでもはっきりと聞こえてきて、威嚇してるようにも思える。

それとリリィは、見つめ合ったままの状態で動かない。


フゥ・・と安堵の息が漏れる。

取り合えず、想像してたような怖いものではない。

でもリリィにとっては、この鳥が怖いみたい。



「昨日の、白フクロウだわ・・・リリィ、怖がらなくてもいいわ。この子は、悪いものではないと思うの」



太陽の光の中で見ても、その羽は真っ白でとても美しい。

固まってる体をほぐすように背中を撫でてあげると、少しずつ体の力が抜けていってカーテンからゆっくりと手を離した。


・・・でも、どうしてまたここに・・・?



疑問を呟きながら見ていると、白フクロウはリリィからこちらに視線を移した。

真っ直ぐに向けられるガラス玉のような瞳。

目が合った途端、バサバサと羽ばたいて窓に近寄ったり離れたりし始めた。

その激しい動きに、ちょっぴり恐いと感じてしまう。



「ぁ・・・ユリアさん、あの・・・これ・・・。白フクロウのこと、知ってるの?」

「えぇ、知ってるって言うか・・・。昨夜ココに来たの。散歩してたみたいで、暫く飛び回ってから帰っていったわ。でも、また来たということは、この城が余程気に入ったのかもしれないわね?」



上空から見えた、綺麗な碧い屋根に惹かれたのかもしれない。

もしかしたら、家を作る場所を探してるのかも?



「ううん・・・城じゃなくて。ユリアさんを気にしてる。ぁ、・・っと・・・みたいだよ?」
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