魔王に甘いくちづけを【完】
白フクロウは、窓の向こうでしきりに鳴き声を上げて翼を動かしながらこちらを見ている。

どうやら、部屋の中に入りたいようだけど―――


「この部屋に入りたいみたい。入れちゃ、ダメだよね?」


リリィもそう言うけれど。


“ユリア様、正体の知れないものには気をつけて下さい”



昨夜、室長にそう言われたばかり。

例の事件の影響で、身の周りがピリピリとした緊張感に包まれているのは、嫌でも感じている。

こんな時に、新たな騒ぎの種になりそうなことを自分の手で招き入れるわけにはいかない。

この白フクロウからは、何の邪気も感じないけど。



「ごめんなさい、中には入れられないの」


言葉が伝わらないのか、キョトンとした感じで頭を傾げた。

そのあと翼で窓を叩くようにして、時々嘴を窓に当てたりして、ひょこひょこと桟の上を動き回っている。

リリィが何か言いたげに口を開いては閉じてを繰り返して、白フクロウを見つめてる。

翼がピシピシと窓に当たって白い羽が数枚ひらひらと舞う。

このままでは翼が傷ついてしまいそうで、なんとか分かって貰おうと身ぶりを交えていると、何を言ってるのか漸く分かってくれたのか、バタバタと動き回るのをやめて大人しくなった。


すぐそこの、窓枠が出っ張ってる部分に静かにとまってる。



「やっと、大人しくなったね」


リリィは安心した様子でこちらに向き直るとニッコリ笑って、私もう行くね、と言って部屋を出ていった。



入れ替わりに身支度専門の侍女たちが入ってくる。

開いたドアの向こうに、髭の侍従長と見知らぬ侍女が二人立ってるのが見える。

見知らぬその子たちは、目が合うとニコリと微笑んで丁寧に膝を折った。

じきに大きな背中がヌゥッと現れて、二人の笑顔を塞いでしまった。

あの子たちは・・・。




「おはようございます。ユリア様」


流れるような優美な所作で挨拶をするいつもの二人。

昨日と変わらない元気な姿。けれど、表情は曇っている。


二人並んで居住まいを正して正面に立つと、互いに顔を見合わせ息を合わせて同時に頭を下げた。



「ユリア様、申し訳ありませんでした。昨日は、お助けすることが出来ずに。ご無事で、本当に、何よりでございます」


「昨日は大変で御座いました。何を置いてもここに駆け付けるべきでしたのに、震えていて何もできなかった私共をお許し下さい」
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