魔王に甘いくちづけを【完】
出した声が震えてる。


アリの背中の辺りから煙のようなものがモヤモヤと立ち昇ってる。


この臭いの元は・・・。




嫌っ・・・まさか、そんな・・・。





「アリ殿!」

「アリ!?私を下ろして!下ろしなさい!!」



遠くから叫ぶジークの声を聞きながら必死で呼び掛ける。



私を下ろして。

お願いだから負担を減らして。



蒼白な顔色に額から吹き出る汗。


無理矢理に微笑む顔が見下ろしてくる。


それはまるで、大丈夫だとでも言うように。




「だめ・・・おろして・・・おねがい」


首を横に振って訴える。




―――嫌・・どうして?


いつもそんな顔しないじゃない・・・


こんな時に優しい瞳をしないで。


それじゃまるで・・・まるで―――――・・・




記憶がフッと浮かび上がる。



“良いのです!さぁ、行きますよ”



騎士団長の顔と重なる。


あの時と同じ。


剣の音が響くのを背後に聞きながら森の中を必死で走った、あの時最後に見た笑顔と。




駄目。


そんなの絶対に駄目なんだから。


そんなこと、許さないんだから。



「下ろしなさいったら!アリ!?」




遠くからかけ戻ったジークが背中を診て唇を噛んだ。


・・・ジーク、アリの背中はどうなってるの・・・?



聞きたいことが声になって出て来ない。


「なんてことを・・・」

と唸る声にケルヴェスの高らかなそれが重なる。

「逃がしません。絶対に」


ケルヴェスの足音が近づいてくる。
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