魔王に甘いくちづけを【完】
「・・・・・」

「・・・・・」


――誰・・・誰かが何か話してる・・・。


背中に当たるのは、ふわふわとしたクッション。

さらさらと滑るような気持ちの良い肌触りの布。

瞳を閉じていても、心地良い柔らかなベッドの上にいることが分かる。



――ここは・・・。そう、確か私は・・・名前も知らない方に血を吸われそうになって、それを誰かが助けてくれたんだわ・・・。



ゆっくりと開いた瞳にぼんやりと映るのは、埋もれるように掛けられたふんわりとした柔らかな布。

声がする方を見ようにもフワフワの白い壁に阻まれ、どうにも向こう側が見えない。

上を向くと、ぼやけながらゆらゆらと揺れる天井が映る。


―――っ・・・まだクラクラするわ・・・。


再び気分が悪くなり、ユリアは堪らずに瞼を閉じた。

なんだか体が鉛のように、重い・・・。




「・・大丈夫だったの?」

「あぁ・・危なかった・・・だな」

「貴方ともあろうお方が・・・早く・・下さればいいのに・・・」


ぼうっとした意識の中耳に届くのは、ボソボソと話す女性と男性の声。

女性は話しながら、時々クスクスと楽しげに笑ってる。

男性の方は落ち着いた低い声・・・この声はもしかして、あの女性とラヴル?


・・・コト・・カタン・・・


テーブルに何かを置くような音・・・。

ワイングラスかしら。



だんだん意識がはっきりとするとともに、微かに途切れがちに耳に届いていた声が、徐々に鮮明に分かるようになってきた。




「・・・貴女が私を離さなかったんだろう?よく言ってくれる・・・・もういいのか?なんなら、今ここでさっきの続きをしようか?」


「まぁ、なんて方なんでしょう。困った方ね・・・それはまた今度ね―――ほら、もうすぐ貴方の可愛いレディが目を覚ますわ。では、またね」


クスクス笑う声とパタパタと足音が遠ざかって行き、やがてパタンと静かにドアが閉められ女性の声が聞こえなくなった。



部屋の中に静寂な空気が訪れる。

暫くののち、コトン・・・と何かを置く音がした後、衣擦れの音がし始めた。

それがだんだん此方に近付いて来て止まると、布団の中に何かが忍び込み、何かを探すように彷徨い始めた。

それは腕に触れるとそっと掴み、布団の外へと引っ張り出した。

指の間に絡まる様にキュッと握られ、何か柔らかいものが、そっと触れた。



「ユリア、目を覚ませ」


指先に吐息がかかるのが分かる。


まるで、唇に近い場所に手があるみたい。



―――コンコン


その時、不意に響いたノックの音。

ドアの向こうから、ヤナジの声が聞こえてきた。



『ラヴル様?あーーーっと・・・入っても、宜しいかな?』
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