魔王に甘いくちづけを【完】
丁度顎の下辺りに絡められたラヴルの腕が、どんどん閉められ、ススと体が引き寄せられる。
頭の上から髪の匂いを嗅ぐ小さな音が聞こえてきた。
「甘くていい香りだ。ユリアの香りは落ち着く」
「・・あの・・・ありがとうございました」
「―――?何のことだ。それは機嫌が直ったという答えなのか?」
訪ね返すラヴルの唇が髪に何度も落とされる。
「違います。襲われていたところを助けてもらって、それに、あの・・毒も・・・。そのお礼です・・・」
「ユリアを守るのは当然の私の役目だからな。礼なんか言う必要はない。ユリアは―――っ・・・」
急に口を噤むラヴル。大きな掌がユリアの口をそっと塞いだ。
豹変したラヴルの雰囲気。何が起こったのか不安になりユリアも息をひそめる。
部屋の中は物音一つしない。
もちろん窓の外も、変わらない夜の闇があるだけ。
さっきからラヴルは微動だにしない。
何かに集中するように息を潜めてる様子が、背後から伝わってくる。
「・・・不粋な・・・」
ぼそりと呟いた後、口を塞いでいる手が何度かピクッと動く。
ラヴルは、ユリアの体を窓から離すように、自分の体で隠すように脇の辺りで抱え直した後、テラスに向かって掌を差し出した。
瞳がすーっと赤く染まっていく。
同時に、外の木がザザザッと大きく揺れ、ドンと何か重いものが落ちたような音と、微かなうめき声のようなものが外から聞こえてきた。
木の枝は、名残でガサガサと揺れたまま。
相当大きなものがそこにいたことが容易に想像できた。
何が起こっているのか分からずラヴルを見上げると、眉根を寄せて窓の向こうをずっと睨みつけていた。
無言のまま外を見据える瞳から、緊迫感が伝わってくる。
「あの・・・ラヴル、何が起こってるんですか?」
「しっ・・ユリア、静かにしてろ。私の腕の中から出るな――――」
低い声で早口で言われ、ユリアの緊張感が高まっていく。
どう見ても普通でないラヴルの様子。
怖くて、言われた通りに体を寄せて息を殺していると、体の向きをくるっと変えられ、顔が胸にぎゅっと押し付けられた。
まるで、見えないものから守る様に、細い体に覆い被さるようにすっぽりと腕の中に入れられた。
気配を探る様に、漆黒の瞳が部屋の中を注意深く彷徨う。
「・・・チッ・・・こんなときに・・・。結界を掻い潜ってまで来るとはな―――」
その瞳が部屋の中のある一点に留まり、そこに空気を裂くような鋭い視線が注がれた。
頭の上から髪の匂いを嗅ぐ小さな音が聞こえてきた。
「甘くていい香りだ。ユリアの香りは落ち着く」
「・・あの・・・ありがとうございました」
「―――?何のことだ。それは機嫌が直ったという答えなのか?」
訪ね返すラヴルの唇が髪に何度も落とされる。
「違います。襲われていたところを助けてもらって、それに、あの・・毒も・・・。そのお礼です・・・」
「ユリアを守るのは当然の私の役目だからな。礼なんか言う必要はない。ユリアは―――っ・・・」
急に口を噤むラヴル。大きな掌がユリアの口をそっと塞いだ。
豹変したラヴルの雰囲気。何が起こったのか不安になりユリアも息をひそめる。
部屋の中は物音一つしない。
もちろん窓の外も、変わらない夜の闇があるだけ。
さっきからラヴルは微動だにしない。
何かに集中するように息を潜めてる様子が、背後から伝わってくる。
「・・・不粋な・・・」
ぼそりと呟いた後、口を塞いでいる手が何度かピクッと動く。
ラヴルは、ユリアの体を窓から離すように、自分の体で隠すように脇の辺りで抱え直した後、テラスに向かって掌を差し出した。
瞳がすーっと赤く染まっていく。
同時に、外の木がザザザッと大きく揺れ、ドンと何か重いものが落ちたような音と、微かなうめき声のようなものが外から聞こえてきた。
木の枝は、名残でガサガサと揺れたまま。
相当大きなものがそこにいたことが容易に想像できた。
何が起こっているのか分からずラヴルを見上げると、眉根を寄せて窓の向こうをずっと睨みつけていた。
無言のまま外を見据える瞳から、緊迫感が伝わってくる。
「あの・・・ラヴル、何が起こってるんですか?」
「しっ・・ユリア、静かにしてろ。私の腕の中から出るな――――」
低い声で早口で言われ、ユリアの緊張感が高まっていく。
どう見ても普通でないラヴルの様子。
怖くて、言われた通りに体を寄せて息を殺していると、体の向きをくるっと変えられ、顔が胸にぎゅっと押し付けられた。
まるで、見えないものから守る様に、細い体に覆い被さるようにすっぽりと腕の中に入れられた。
気配を探る様に、漆黒の瞳が部屋の中を注意深く彷徨う。
「・・・チッ・・・こんなときに・・・。結界を掻い潜ってまで来るとはな―――」
その瞳が部屋の中のある一点に留まり、そこに空気を裂くような鋭い視線が注がれた。