魔王に甘いくちづけを【完】
ポンポンと頭に置かれた手が、とても優しく感じる。

ゆっくりと離れていく大きな手。



――どうして・・・?

なんだかこのまま逢えないような、そんな気がしてしまう。

ケルヴェスは悪い人には見えないけれど、何か不安を感じてしまう。

どこか遠くへ連れて行ってしまって、二度と逢えないような―――



離れていく体を追いかけるように、いつの間にか手が伸びていた。


ピタッと動きを止めたラヴルの脚。

少し驚いた瞳が、遠慮がちに腕を掴んでいる白い手の上に向けられた。

長い指が、白い手の甲をくすぐる様にするっと撫でる。

振り返った漆黒の瞳に映るのは、不安げに見上げているユリアの少し潤んだ黒い瞳。



「どうした?ユリア」


「あ・・・ごめんなさい・・・あの・・・」



パッと手を離し、口ごもりながら俯くユリア。


目の前の自分の手を見つめ、どうしてそんなことをしてしまったのか、自分でも理解できないでいた。


腕から逃れたその白い手をすかさず掴んだラヴルの大きな手。

両手で包み込み、不安そうに揺れるユリアの瞳をじっと見つめた。


「一緒に連れて行ってやりたいが、今回はそういうわけにもいかない。だが、こんな事を思うのは初めてだが・・・これが例え不安に思う気持ちからだとしても、こんな風に引き留められるのは嬉しいものだな・・・。なるべく早く戻る」


手の甲に口づけを残し、ラヴルはケルヴェスと一緒に部屋を出ていった。






広い部屋の中、一人佇むユリア。



―――寂しい―――


急に心に浮かんだ想い。


妖艶にからかうような瞳。


人がいても、なりふり構わず触れてくる長い指。



苦しいくらいに抱きしめてくる逞しい腕。



とても困っていたはずなのに・・・。


あの方はとても怖い方なのに・・・。



こんなのおかしい・・・。
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