魔王に甘いくちづけを【完】
「ユリア様、お目覚めですか」


「・・・おはよう、ナーダ」


少し元気のない様子のユリアをチラッと見やり、ナーダはクローゼットからドレスを取り出しながらポソっと言った。



「・・ラヴル様でしたら、昨夜はケルンの屋敷で休まれました」


「え・・・?」


不思議そうに見つめるユリアの枕元にドレスを置き、ナーダは朝食の乗せられたワゴンの方に歩いていく。

ワゴンをガラガラと動かしながら再びポソっと言った。


「あぁ見えますが、ラヴル様は大変誠実な方です。ご心配なさらなくても、ケルンには女性はおられません」


「あの・・・」


「もう少しお待ち下さい。きっと、すぐに会いに来られますよ」



――ナーダはさっきから何を言っているの?



「あの、私、何も聞いてないんですけど・・・」



すると、ナーダは少し顔色を変えた後、瞳を伏せた。

心なしか頬が赤く染まっているように見える。



「ほら、ユリア様。早く起きてお着替えになりませんと、また不躾にドアが開けられます」


「え?本当に、もう来るの?」



ユリアは起こしかけた体を再びベッドに沈めた。

もし、着替えてる途中で来られたら堪らない。

ラヴルが来るまで、着替えない方がいいみたい・・・。


でも・・・もし、来なかったら?


ユリアが起きるか起きまいか迷っていると、大きな声がドアの向こうから響いてきた。




『ユリア様!おはようございます!ツバキです!』




ほらね・・・というように肩をすくめたあと、ナーダはドアの方をキッと睨んだ。

バッと開かれたドアの向こうに、妙に姿勢よく立つツバキと、その後ろで静かに佇むラヴルが見える。



「ラヴル様、ユリア様はお目覚めになられたばかりで、まだお着替えになっておりません」


「分かっている。だが、ナーダも昨夜のことは知っているはずだ」


「御心配は分かりますが。ラヴル様が手配した夜の守りのおかげで、ユリア様には傷一つ御座いません。ユリア様に嫌われたくないのでしょう?・・・でしたら、着替えが終わるまで、此方でお待ち下さい!」



鼻息も荒く、有無を言わせぬ迫力できっぱりと言い渡し、ナーダはドアをパタンと閉めた。
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