黒姫
湖の底は思っていたよりも深く、足が全然届かない。
手を必死に動かし、反対の岸に向かって泳ぎ始めた。
ガサガサ…ガサガサ…
ヤバい。本当にヤバい。
水の音よりも、背後の草むらの音の方が大きい。
早く逃げなきゃ…っ!!
水を含んだ制服のせいで思ったよりも前に進めず、焦りは増すばかり。
そして、湖の3分の1を泳ぎ終えた時……
ガサガサ…ガサッ!!!
草むらを掻き分ける音が急に止まった。
ついにさっきまで私がいた場所にたどり着いてしまったんだ…。
振り向くのが怖かった。だから、必死に前だけを見て…手を動かして泳いでいた。
「…ッ……そっちに行くな!!」
背後から男の叫ぶ声が聞こえた。
あの黒フードの男とは違い、低くてよく響く声…。
「……えっ…?」
動かしていた手を止め、反射的にチラッと振り向いてしまった。
そこにいたのは、灰色の馬に乗った白いフードの人。
「……白?」
あの黒フードの男じゃないの?
体が沈まないように水面下で足を動かしながら、体を男側へと反転させる。
「そっちへ行くな!!」
同じ内容でまた叫んでいる。
さっきよりも声が大きい。