黒姫
「…………。」
そして、私は抵抗を止めた。
抵抗しても無駄だという諦めもあったけど……男の優しく響く低い声や動作に、少しずつ恐怖心が薄れていったからだ。
「……………落ち着いたか?」
そんな私を見計らったように、男が静かに問い掛ける。
コクンと私が頷くと、ゆっくりと体を離してくれた。
ゆっくりと顔を上げ、相手を見上げてみる。
そこには、満月にも負けない金色と澄んだ青空のような青色があった。
「……………外人…?」
眩しい位の金色の髪。その長い髪から覗くのは、とても綺麗な青い瞳。
力強くも、どこか優しげな印象を持つ瞳だった。
鼻は高く、日本人ではない事は明確だ。だから、思わず口から漏れてしまった。
「……とりあえず、ここから出るぞ。」
相手の顔に見とれていた私は、その言葉を聞いてハッとした。
「まっ、待って!…あなた…あの黒いローブの仲間じゃないの?」
恐る恐る口を開く。
緊張しているせいか、水の中にいるのに口の中がパサパサしている。
「………誰の事かは分からんが、大体予想はつく。…大丈夫だ、俺はそいつ等の仲間ではない。」
目の前の男は一瞬眉を寄せたけど、静かに首を横に振る。
そして、私の体をグッと抱き、元の岸へと泳ぎ始めた。