黒姫
それから数分後、私達は岸へ上がった。
先に湖から上がった男が、私の手を掴んで引き上げてくれた。
「…………。」
「…………。」
岸へ上がったのは良いけど、お互い無言。
男はすぐ私に背を向けて、地面から何かを拾い上げていた。
私は…この人を信用していいのか分からず、少し後退りして距離を置いた。
タタッ……タタッ…と、髪から制服から水滴が地面に落ちる。
私だけじゃなく、目の前にいる男もだった。
男は腰に長い何かを差した後、クルッとこちらを振り返った。
身長は思っていたよりも高い。見上げないと、男の顔が見えなかった。
「………体が冷える。これを着ていろ。」
そう言って差し出した男の手には、白い布地みたいな物。
おずおずとそれを受け取る。
両手で広げてみると、それは白いローブだった。しかもかなり大きい…。
(これ……この人が着ていた物?)
馬の上に乗っていた白いローブ姿の男が頭をよぎった。
まだほんのり温かい。
「あなたは……良いの?」
男に視線を戻す。男の姿は私よりも薄着のような印象を受ける。
黒いズボンに、白いシャツ。上には何も羽織っていなかった。
腰に長い棒のような物が斜めに下がっていた。
水によって服が体に張り付いている男の姿に、受け取ったばかりのローブを相手に差し出す。
「俺はいい…。お前が着ろ。」
そう言うと、私が手に持っていたローブを取り……私に勢いよく頭から被せた。
ズボッと、効果音が付いているのは気のせいじゃない。
「…ぷっ……はっ。ちょっと!!私よりもそっちが薄着でしょう?!」
布地が私の口と鼻を一瞬塞いだ。
それから解放された後、私は視界を遮るローブのフードを捲り、目の前にいる男をキッと睨み付ける。
「……その格好は目立つ。着くまでそれを着ていろ。フードは取るなよ。」
私の睨みには全く動じないのか、男は平然とした態度で自分の前髪を掻き上げ、後ろへと流した。
俗に言うオールバックだ。