黒姫
顔にかかっていた前髪が無くなった事により、男の青い瞳がはっきりと見える。
その瞳は私を真っ直ぐに見つめていた。
男の言っている意味が分からず、相手の目を見ながら私は首を斜めに捻った。
「目立つって?…それに、着くまでって??」
濡れている私の姿は目立つかもしれない。けど、目の前にいる男もずぶ濡れだ。
見るからに、私よりも薄着。
それに、正直言うと…このローブを着ている方がある意味逆に目立つと思う。
こんな姿で民家の人に助けを求めても、コスプレをしている人にしか思われないだろう。
最悪、110押されて終わり。助けを求めてるのに捕まるだなんて…………。
最悪の方向を想像してローブを脱ごうとした瞬間、急に浮遊感が私を襲った。
「きゃっ…!!」
思わず悲鳴が上がってしまう。
男に抱き上げられた事に気付いたのは、そんなに時間がかからなかった。
「なっ……降ろし「……ウェリィーッ!!」」
私の声を遮るように男が声を上げると、灰色の馬が私達の近くに寄ってきた。
ウェリィーと言うのは、灰色の馬の名前らしい。
そして、男は私を横に抱いた状態でウェリィーに飛び乗った。
二度も続く浮遊感に、私は思わず男の胸元にしがみついてしまう。
「…飛ばす。そのまま俺に掴まっていろ。」
男は、私が馬から落ちないように片手でギュッと抱き直し、胸元にしがみついている私に言った。
そして、「ハァッ!」と言う男の掛け声と共にウェリィーが勢いよく走り出した。
フードのせいで周りが全く見えず、布越しから聞こえてくる風の音だけがスピードを物語っている。
どこへ向かっているのかが気になったが、激しく上下に揺れているせいで口を開く事はできない。
開けば舌を噛んでしまう。
口元をグッと引き締め、指の先が白くなる位、男の胸元の服を握った。