黒姫
「お召し物のサイズはいかがでしょう?大丈夫でしょうか?」
さっきの女の人だった。
今度は扉を開けず、外から声をかけてきてくれた。
「…あっ……はい、大丈夫…です。」
扉の方を振り向き、その声に答える。
口から出た私の声は、心なしか震えていた。
「…………良かったですわ。温かいお茶をご用意しておりますので、準備ができましたらいらして下さい。」
数秒の間の後、女の人が扉から離れて行った。
変に思われただろうか…。
声が震えてしまった事に、ちょっと不安を感じる。
けど、あの公園で起きた出来事は本当に怖かった。
思い出すと体が震えてくる。
鏡にうつる痣を再び見る勇気が無かった。
さっきまで使っていたタオルを頭に被る。
腰まである髪から水滴が垂れないように、髪も一緒にタオルの中に入れた。
タオルの両端を片手で持ち上げ、それを首もとに押さえつける。
視界が狭くなるけど、外人さんやあの女の人に痣を見られたくなかった。
「……ふぅっ。」
扉を開ける前に深呼吸して自分を落ち着かせる。
少しドキドキしていた心臓が落ち着いた事を確認して、銀色のドアノブを捻って扉を開けた。